第127話 憂鬱な2026年のアメリカ
アメリカは2026年に「建国250年」の歴史的な節目を迎える。ただ、祝賀の年になるはずが、「トランプのアメリカ」では騒動のタネは尽きない。1年前、ドナルド・トランプは米大統領経験者として132年ぶりに返り咲きを果たした。就任時年齢は前任のバイデンよりも高齢な78歳7カ月、歴代最高齢大統領記録を更新中だ。行政と軍に加え、上下両院も共和党が過半数を確保し「トリプルレッド」となり、司法の最高裁も保守派6人対リベラル派3人だ。1期目と違い閣僚やホワイトハウスの側近らは「絶対服従の忠臣」で固め、誰も異論を差し挟めない。トランプは「白い家」で帝王然と君臨している。就任10か月で217本の大統領令に署名し(バイデン前大統領は4年間で162本)、議会の議決を経ずして、思いのまま権力を行使している。
大言壮語癖はつとに有名だが「大統領就任後24時間でウクライナ戦争を停めてみせる」は空証文となっている。連日発する「片言隻句」は「変幻隻句」と揶揄される。
彼はこの1年間、「TARIFF」(関税)を武器に「DEAL」(取引)に挑んだ。さすがに中国には「レアアースの対米禁輸」で反撃され、歯が立たなかったが、EUや日本、アジア諸国との交渉ではブラフでぶち上げた高関税率を下げて決着させた。しかし、アメリカ国内では当然ながら物価高を招き、支持率はダウン傾向、最近は与党・共和党からもトランプ離れが出始めている。“トランプ流〟は国際的にもヨーロッパやグローバルサウスの反発を招き、その間隙に中国が触手を伸ばし、マクロン仏大統領が25年暮れに中国を訪問、26年にフランスで開催されるG7サミットに習近平国家主席をゲストとして招くことも検討されている。英独首相も26年中には中国詣での予定だ。中国には「トランプはなんともありがたい」存在なのだ。中東ガザでは何とか停戦合意にはこぎ着け、「ノーベル平和賞」を所望したが叶わず、合意後もガザでは数百人以上がイスラエルの攻撃で戦死する事態が続いている。
26年のアメリカのカレンダーでは7月4日(独立記念日)と11月3日(中間選挙)が特異日だ。7月4日は「建国250年」の歴史的な記念日となる。アメリカ北東部のイギリス植民地が、フランスの支援を受けてイギリスと独立戦争を戦い、アメリカ合衆国が建国された。
トランプ大統領は建国250年を大々的なイベントで盛り上げる予定だ。ただ、個人的虚栄心が透けて見えるのがいただけない。アメリカの1セント硬貨にはエイブラハム・リンカーンの肖像が刻まれているが、トランプはすでにその製造を終了させた。代わっ1ドル硬貨に自らの肖像を刻印、建国250年記念硬貨として発行する予定だ。リンカーンは南北戦争で分断されたアメリカを統一、奴隷制を廃止し、「人民の人民による人民のための政治」で民主主義を定着させた第16代大統領。「建国の父」のジョージ・ワシントン初代大統領(1ドル紙幣に肖像)と並ぶ「偉大な大統領」と尊敬を集める。そのリンカーンを退場させ、現職大統領が自ら肖像を新たな硬貨に刻もうというのだから、その臆面のなさはブラックジョークをも超える。「建国250年」がMAGA(Make America Greate Again)がリンクし合い、人種差別やアメリカ社会の分断をさらに増幅させないか懸念される。
中間選挙は大統領の与党が議席を減らすのがこれまでの通例だ。2001年のアメリカ同時多発テロを受けてアメリカ国民が団結し、翌年の中間選挙でブッシュ大統領(子)の与党共和党が勝利したのは数少ない例外だ。現在、両院とも共和党が過半数を占めているが、過半数ギリギリの下院で崩れれば自らのレイムダックに繋がるだけに、いま、下院で共和党に有利な選挙区の区割り変更(ゲリマンダー)に懸命だ。
トランプ大統領は4月に中国を訪問する。アメリカ農産物の大量輸出等、アメリカ有権者の琴線に触れる成果を得て、中間選挙へのバネにしたいと計算している。だからこそ高市早苗首相の存立危機事態での国会答弁で日中関係が険悪化していることはトランプ大統領には“不都合なこと”のだ。そこでトランプの方から高市首相に電話をかけ、「中国を刺激しないで」と牽制したのも、自ら訪中成功に向けて障害物を取り除いておこうという狙いによるものだ。
アメリカは25年の南アフリカでのG20サミット(主要20カ国・地域首脳会議)をボイコットしたが、26年はアメリカ開催だ。トランプはフロリダ州の自らの別荘での開催を目指している。かつてG7サミットでも同じ構想を練ったが、トランプ嫌いのドイツのメルケル首相が新型コロナウイルスを理由に断り、お流れになり、結局は「オンライン開催」になったことがある。26年も“トランプ流”で世界が騒がしいのかと思うと、新年への明るい希望よりは、少し憂鬱な気分になる。(文中一部敬称略)
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