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2018年5月

2018年5月23日 (水)

徒然エッセイ 第14話 「セレブ出産」を断った強い?女性

先々月号(本誌二〇一八年五月号)で、「超高齢女流大御所作家」を、先月号(六月号)では「すごいぞ!大阪のおばちゃんパワー」と、女性たちの強い生き様を伝えた。すると、こんな話が飛び込んできた。

<妊娠8か月で東京出張> 

広島のOLのNさん(三七)。三歳の男の子の母である。夫は自動車メーカーのマツダに勤めていて共働き夫婦。Nさんには二人目の子がお腹にいて妊娠八か月。ところが東京への出張予定が控えていた。

「その体で出張は大丈夫かい」と気遣う上司。

「二回目で、私、大体のことはわかってますから大丈夫です。予定日までまだ十週もあるし、出張、行きます。行かせて下さいよ」。

そして東京へ。当日、予定されていた仕事は夕方には無事終わり、早めにホテルのベッドで横になっていた。ただ、数日前からカゼ気味だった。咳をすると腹に圧がかかり、「子宮の口から何かちょろッと漏れ出した感じ」がした。

お腹の張りも陣痛もなく、「破水じゃないね」と自分では思いながらも、広島のかかりつけの産婦人科に電話をかけた。「明日、そちらに帰るんで診てくださいます?」。

様子を聞いた医者は「破水だとまずい。すぐに近くの病院へ行きなさいッ」。

<タクシーから救急車に乗り換えて>

 そこでNさん、ホテルからタクシーに乗り、近くの慈恵医大(港区)に。

ところが「万一、この段階で生まれると未熟児になり、NICU(新生児集中治療室)でのケアが必要となる。ただ、今晩はNICUがいっぱいで、対応できない」と病院が救急車を手配してくれた。

 そして救急車が到着し、救急隊員が無線でNICU対応の病院を探したら、聖路加国際病院(中央区)が受け入れOKとわかり、そちらへ向かった。

 Nさん、救急車は初体験だった。サイレンを響かせ、赤色灯が回り、赤信号の交差点も通り過ぎるスリルを感じて、身を固くしながら「重病でもないのに、救急車なんて申し訳ないわ」と盛んに恐縮していた。救急隊員は「こういう時は仕方ないですよ。遠慮することないんですよ」と慰めてくれた。

 まもなく病院に着くという時、病院から救急車の携帯に電話が入った。「ご本人を」とのことで、電話は救急隊員からNさんに。

<120万円ですが、よろしゅうございますか>

「あのォ。うちで出産されるとなりますと費用は百二十万円ほどかかりますが・・・。入院費用も一日三万円ですが、よろしゅうございますか・・・・」。

地元の産婦人科では「出産で五十万円、入院は個室利用でも一日一万円」と聞いていたNさん。セレブ待遇にビックリ仰天。

頭を抱え、すぐ返事ができず、「どうしましょう」と救急隊員の顔を見つめた。

隊員はNさんに気を遣ったのか「それほど切迫状態でもないので、ほかの病院を探しましょうか」。

本人は「そ、そ、そうしましょう。お願いします」。

「あそこは大変有名な病院で、サービスも最高です。でも、さすがに百二十万円は高いと感じれれるのも分かります」と隊員も話を合わせてくれ、庶民感覚の一致で苦笑い。

 結局、救急隊員の手際よい探索で東京医科歯科大病院(文京区)が受け入れOKとわかり、一泊の検査入院となった。

 「羊水も保たれ、お腹の赤ちゃんの心音も安定している」との診断で、翌日にはマツダに勤める夫も広島から駆けつけ、二人は新幹線で自宅に帰った。

コトの顛末を聞き、診察したかりつけ医はNさんに厳しく注意した。

「妊娠8か月ともなれば、破水はいつ起こるかわかりませんよ。出張や旅行で遠方に出かけることは一切ダメとは言いませんが、行先での緊急時には、その街で出産する覚悟がないと・・・」。

Nさん、「すみません」と何度も何度もかかりつけ医に頭を下げた。


<私は普通のOL,セレブじゃないもん!!>

ところが会社に戻ると、同僚たちの心配をよそに、自分の楽天家ぶりを棚に上げて、「ね、ね、百二十万円はやっぱり高いと思うでしょう。ね。でしょうッ」。

「あなたは生まれてくる子と百二十万円を天秤にかけたことになるよ」と、口の悪い上司が冷やかすと、「違いますッ。普通だと半分以下の五十万円で出産できるのですッ。救急車の中では一瞬、迷ったけど、やっぱり私、普通のOLです。セレブじゃないもん」。

Nさん、その後、産休に入り、五月末が予定日。このコラムが読者に届くころには二人目の男の子の母親になっていることだろう。

このエピソードについてNさん、「コラムは私の実名で書いてくださってもいいわ」とケロッと話した。前二号の女性たちのようにシェークスピアをもじれば「強き者、汝の名は女なのか」とも思う。ただ、「百二十万円が高いかどうか」という問題より、Nさんの楽天家ぶり、無謀さが浮き彫りになると迷惑をかけるのでこのコラムでは「Nさん」とイニシャルにした。

                                                (自由待夢)

                                    リベラルタイム2018年7月号

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                                                                                        イラスト・山下一徳
                                                               

2018年5月 7日 (月)

徒然エッセイ 第13話 すごいぞ大阪のおばちゃんパワー

 先月号で佐藤愛子さんら「超高齢女流大御所作家たち」のお元気ぶりにフォーカスを当てた。今回はもっとお元気な大阪のおばちゃんの生エピソード。知人から聞いた話だが、自称「おばちゃん」のKさんに直接、確認した実話だ。

 A社の東京本社と関西支社の同じセクションのスタッフが年に一回、合同で小旅行をしている。「同じ社でも東京と大阪で、顔も知らないままお互いに電話やメールで連絡していると、時々話が通じないことがある」と、毎年秋に一泊旅行をして

親睦を深めるのが目的だ。

東京と大阪が交互に幹事を務め、観光、宴会、カラオケ、一泊という流れ。前年が東京の幹事で箱根での開催なら、今年は大阪が幹事で京都へ行くという具合。

<鳥羽水族館でのサプライズ>

その年は伊勢神宮に参拝後、鳥羽水族館(三重県鳥羽市)で童心に返るプラン。  東京組の一人が動物園や水族館大好き人間で、「ぜひとも」という強い希望で鳥羽に決まった。何でも鳥羽水族館は飼育種類が千二百種類もいて全国NO1なうえに日本で唯一ジュゴンに会えるのがファンにはたまらないらしい。

東京から十四人、大阪から七人の“御一行様”だ。現地合流して伊勢神宮に参拝した後、目指す鳥羽へ。それは鳥羽水族館の正門入り口でのことだった。幹事役の大阪の五十代の女性管理職Kさんが、近くにいた見知らぬ年配の女性四人連れに声を掛けた。

 <その場で結成された「団体」>

「ねぇねぇ、今から、入るんやろ?私らも入るんやけど、あと四人で団体料金に

なるねん。そやから、一緒に入らへん。団体割引だと一人二百五十円お得になる

からね。入園後は別行動OKよ」。

 東京組は最初、コトの意味がわからなかった。A社グループは東京、大阪合わ

せて二十一人。一般の切符売り場の隣の「団体窓口」に「団体(二十五人以上)」

とあった。「一般券売り場」で買うと入館料は一人分二千五百円。ところが「団

体」だと一〇%割引で一人二千二百五十円。一人二百五十円お得になる計算だ。

 大阪組の女性幹事Kさんは、見ず知らずの四人連れに声を掛け、即席の「団体」

を結成したのだ。Kさんは二十五人分の団体チケットをまとめて買い、うち四枚

を即席の“お仲間”の四人に渡した。

「一般だと四人で一万円だけど、割引で九千円になります」。

 四人連れの中年女性たちは大感激。

「いやぁ、得したわぁ。嬉しいわぁ。ほんま、ありがとうね」と言いながら、ゲイトの中へ入っていった。

A社の東西合体組もそれぞれチケットを受け取ってゲイトに。

<大阪のおばさんの逞しさ>

「Kさん、大幹事長、あなた、すごいね。大阪の女性は逞しいね」。

東京組のボスが大阪の女性幹事Kさんに声をかけた。

「別に恥ずかしいことなんかないですよ。あの四人の奥さん方も得したし、私らも

計五千二百五十円得したのよ。浮かしたお金を今晩の宴会代に回せるじゃないで

すか」。

脇から東京組の女性が「私たち、とてもできないわ」というと、「何言うてる

の。関西じゃ、当たり前のことやねん。頭使わなあかんねんよ」

このKさんは、東京の友達が結婚準備で家具をまとめて買う時、付き添いの値

切り役を頼まれたという。買う品物が決まった後、見積もりを見て「で? なんぼに?」と目で訴えた。

 家具屋のスタッフが相当割引した再見積りを出して来たら、品物ごとに値段を

チェックした。

「この千円単位の端数はみんな引いといてよね」。

東京の女性は「も、も、もう十分です」というとKさんはこう切り返した。

<値札どおおりで買うなんて許せないの>

「いや私たち大阪人は値札どおりで買うなんて許せないの。大阪のおばちゃんパワーよ」

大阪の[Kおばちゃん」に乾杯!!                                                   

                              (自由待夢) 

                     リベラルタイム2018年6月号より 

                     イラスト・山下一徳

 

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