徒然エッセイ第34話 東京五輪に埋没する? 広島、長崎平和祈念式
二〇二〇東京オリンピック・パラリンピックがいよいよ迫ってきた。猛暑の中での競技、交通渋滞、感染症、テロ等、心配のタネは尽きないが、広島、長崎ではもう一つの懸念が広がっている。広島、長崎に原爆が投下された日であり、毎年「平和祈念式典」が行われている八月六日、九日が東京オリンピックの真っ最中になるからだ。「今年が被爆七十五年の節目の年なのに、国民の関心がオリンピックに集中し、ただでさえ風化が進む被爆の記憶が、今年を境に一挙に忘れ去られてしまうのではないか」という危機感が高まっているのだ。このため、オリンピックで来日するアスリートや外国のリーダーに被爆地訪問を要請し、「被爆の実相」に触れて世界に発信してもらおうという、オリンピックを絡めた“招待外交”を企画している。
今年の年明けの頃は「オリンピックイヤーの到来」という感じだったが、オリンピックはいよいよすぐそこまで迫ってきた。五輪の聖火は三月十二日にギリシャ・古代オリンピアで採火され、同二十日に日本に到着、「復興五輪」にちなんで宮城、岩手、福島の三県で「復興の火」として展示される。二十六日からは福島県のナショナルトレーニングセンターをスタート地点に、全国で聖火リレーが繰り広げられる。この頃になると本番へのカウントダウンに入り、〝オリンピックフィーバー〞の盛り上がりを見せるだろう。
一方、広島での平和祈念式典(広島市原爆死没者慰霊式・平和祈念式)の八月六日はすでにオリンピックが開幕(七月二十四日)しており、この日は日本のメダル獲得が期待される女子卓球や二〇㎞競歩が行われる。また、長崎の慰霊式の九日は男子マラソン、女子バレーボールやフィナーレである閉会式とぶつかっている。
このため、広島、長崎では「国民の関心はオリンピックのメダル獲得に集中し、平和式典等、見向きもされないのではないか」と懸念している。現にマスコミ各社も「五年前の被爆・終戦七十周年の時は、戦争や平和をテーマにした様々な特集を組んだが、今年はどうしてもオリンピックに集中せざるを得ない」というのがコンセンサスになっている。
<IOC会長を平和公園に><国連事務総長は8.6に>
そこで、広島では五月十八日の広島での聖火リレーに合わせてIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長を招いて慰霊碑に献花してもらおうと招請したところ、会長からは出席の意向が正式に伝えられた。また、八月九日のオリンピック閉会式出席のために来日する国際連合のグテーレス事務総長に対し、六日の慰霊式典への参列を打診し、核軍縮問題でのメッセージを発してもらうよう要請したところ、このほど参列が確定した。 このほか、広島、長崎両市は七月から八月のオリンピックの時期に合わせ、海外からのオリンピック観光客を意識して、東京都や埼玉県で「原爆展」を開催する。広島県も平和や軍縮をテーマにした国際会議やシンポジウムを予定している。また、長崎市は「オリンピック競技終了後のアスリートや、パラリンピックで来日する世界の人に、長崎まで足を延ばしてもらいたい」と呼びかけている。
<海外VIPの平和メッセージーが頼みの綱>
広島、長崎は、近年では一六年のオバマ米大統領や一九年のローマ教皇のように、世界のトップリーダーを招き、平和公園での献花の上、平和のメッセージを発信してもらい、それが世界に報道されることで「核軍縮」への関心を繋ぎ止めようとしてきた。ただ、原爆投下からすでに七十五年、年月の経過とともに確実に「風化」しており、国内でも八月六日や九日がどういう日か知らない若者が増えている。被爆者の高齢化で被爆体験の継承も困難さを増しており、被爆地でさえ「毎年の追悼式典もマンネリ化し、年中行事となっていないか」と指摘する厳しい声も聞かれる。
国際情勢はトランプ米政権のスタンスから核廃絶どころか核軍縮の議論さえ、前進が期待されない状況だ。そんな中、唯一の戦争被爆国の日本で五十六年ぶりに開催される「平和の祭典」のオリンピックが、「人類最初の惨劇」である「八月の記憶」をも忘却の彼方へと押しやるのか、オリンピックとリンクさせた〝招待外交〞で、少しでも食い止められるのか……。
| コメント (0)