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2020年10月

2020年10月 5日 (月)

徒然エッセイ第41回 「ブラック」「黒」 どこまでOKで、どこからNGなのか?

 カンヌ、ベネチアと並ぶ世界三大映画祭のベルリン国際映画祭は、二〇二一年二月に開催予定の映画祭から「主演男優賞」「主演女優賞」を廃止し、「主演俳優賞」と「助演俳優賞」にする。「ジェンダー・ニュートラル」(性的中立性)という考え方によるものだ。また、日本航空(JAL)は2020年10月から、それまで機内アナウンスで「ladies and gentlemen」と呼びかけていたのをやめて「all passengers」に切り替えた。LGBT(性的少数者)への配慮だという。このように世界的に「差別」に関する感性が敏感になったのを受けて「ブラック」や「黒」などこれまで特段に神経を配ることなく使ってきた言葉に対し、無意識であっても「差別を助長することにつながる。言い換えるべきだ」との問題提起まで聞かれる。一方で「人種差別とは無縁の文脈で使っていれば問題ない。過剰な言い換えは言葉狩りだ」という指摘もある。「なるほど」と思ったり「何もそこまで」と考え込んだりもする。

<「Black」と大文字表記する意味>

 かつてアメリカでは黒人のことを「ニガー(ニグロ)」という人達がいた。さすがにこれは蔑称で、最近ではよほどの人種差別容認主義者でない限り使わない。いまは黒人のことは一般的に「ブラック」と呼ぶ。「African American」(アフリカ系アメリカ人)と言ったりもするが、米大統領選の民主党副大統領候補のカラマ・ハリス氏が中米ジャマイカ系の父親とインド系の母親を持つ移民二世であることから「アフリカ系」では説明できなくなり、アメリカ社会でも「黒人女性初の副大統領候補」と、米メディアでも「ブラック」と報じられている。

 AP通信は六月に「黒人を人種や民族、文化的意味で表現する場合は『Black』と大文字のBを使う」という指針を発表、『ニューヨーク・タイムズ』紙なども同調した。黒人男性が白人警察官に圧死させられた事件後、むしろ大文字にすることで人種差別反対の意味合いを強調したのだ。このように「ブラック」という表現そのものは何ら蔑視的表現ではない。

<「ブラック企業」はNGか?>

 一方、日本では「ブラックマネー」「ブラックジョーク」「ブラックジャーナリズム」など「ブラック」はネガティブなニュアンスで使われることが多い。労働条件が過酷な会社を「ブラック企業」など「ブラック=悪質」という意味で使われる。

 『朝日新聞』は八月三日付の紙面で「『ブラック企業』呼び方に異論」という見出しの記事を掲載、注意を喚起した。しかし、その記事の中で『朝日新聞』自身もこれまで「ブラック企業」を多用してきた事実も認め、「『黒』『ブラック』には、黒人差別的な文脈はない。(そこまで問題視すると)『腹黒い』などの黒を否定的に使う日本語も全て変更しないと一貫性がない」という識者のコメントも同時に載せている。「ブラック企業」はかつて流行語大賞の上位に選ばれたこともあり、『広辞苑』にも掲載されるほど多用されており、そこに人種差別的意味はないし、これまでその使い方が問題視されたこともない。

 また、「ブラックリスト」などネイティブな英語でも否定的意味合いで通用する例もある。一方でスコッチウイスキーでは「ブラック」の方が「レッド」や「ホワイト」より高級だったりもする。

<「黒」の使われ方>

 日本語の「黒」となると「暗黒」「黒い霧」「黒幕」「腹黒い」「黒星」など否定的なニュアンスで使われる表現は確かに多い。一方で柔道の「黒帯」は「黒=上位、有段者」の意味を持つ。いずれも黒人を念頭にした差別的意識など全くないことは明白だ。

 ただ、人種差別問題が世界で敏感に意識されるようになったのを受け、アメリカンフットボールの強豪「ワシントン・レッドスキンズ」は七月にチーム名の変更を発表した。「レッドスキンズ」はアメリカ先住民の「赤い肌」を意味し、スポンサーから異論が出ていた。フランス大手化粧品メーカーの「ロレアル」は商品名から「ホワイトニング」の表記を削除した。日本ではかつて「肌色」といわれたクレヨンや色鉛筆の表記は「うすだいだい色」と変わっている。やはり「肌」との関連となると直接的に「人種」を連想するためか、ビジネス上、敏感にならざるを得ない事情もあるようだ。

37 イラスト・櫻井砂冬美

<「美白」もNGか?>

『朝日新聞』は八月二十六日付で「『美白』は差別か」と問題提起する特集を組んだ。ただ、ここでも識者の一人は「『美白』という言い方に人種差別意識を見出すのは難しい」「『美白』という美容概念として生まれた美しい言葉を大切に扱ってほしい」とむしろ「美白」を擁護するコメントも紹介している。

 言葉には歴史や文化の積み重ねの側面がある。ただ一方で「これまで使ってきた」というだけではOKということにはならず、無意識な言葉遣いでも差別の助長につながっていないかという繊細な感性を持つことは大事なのだろう。知らず知らずに誰かを傷つけていることもある。「ブラック」「黒」、OKとNGの境界線はかなりデリケートではある。 

 

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