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2021年3月

2021年3月26日 (金)

徒然エッセイ第47話 司法試験合格者 初の「定員割れ」

司法試験5回挑戦するも合格せず

 友人のA君は高校生の頃から、弁護士になるのが夢だった。当然のように大学は法学部に入ったが、一般の授業は「出席証明」のために顔を出す程度で、もっぱら司法試験の受験に向けて猛勉強を続けた。同期が就活を始めても見向きもせず、卒業単位をわざと落として留年し、「司法試験浪人」を選択した。しかし、三浪、四浪と重ねても合格を果たせず、体調を崩し、静養を余儀なくされた。A君は教員免許を取得して、高校の先生になった。それでも弁護士の夢を諦めきれず、教壇に立ちながら司法試験の勉強を続けていた。

 私は、親しさゆえにA君に率直に苦言を呈した。

「夢を追い続けることは素晴らしい。しかし、六法全書の世界だけに閉じこもらず、外に目を開いたらどうか。先生と司法試験の二足わらじでは、君の授業を受けている生徒はどう思うかな」

 結局、A君は五回挑戦しても合格せず、限界を感じたのか教師に専念したが、五十代で若死にした。

一連の司法改革

 我国の法曹界は独特の世界で、一般の社会通念や市民感覚から大きく離れた判決が出ることも珍しくなかった。ガリ勉を続けた結果の“世間知らず”や、六法の世界でレトリックだけを弄する弁護士もいて、「司法試験は法匪(法律を詭弁的に解釈して自己利益に持ち込もうとする者)を生み出していないか」と批判を受けることもあった。

 そんな声を受け、司法制度改革審議会での大掛かりな見直し議論が続き、二〇〇一年に司法制度改革推進法が成立した。そして〇四年からは「法科大学院」制度が、〇六年からは新司法試験制度が、そして〇九年からは一般国民が刑事裁判に参加する裁判員制度がスタートした。それぞれ「国民に身近な司法」を目指すもので、法科大学院はその入口として導入された。ただ、当初こそ注目を集めたが、大学入学から法曹資格取得まで八年近くかかり、その長さや授業料等の経済的負担が敬遠され、一方で受験生の「質の低下」が問題視された。

 そして二〇年の司法試験合格者がついに「定員割れ」(正確には「目標割れ」)になってしまった。法務省は一月に二〇年の司法試験合格者を千四百五十人と発表した。法曹関係者はこの数字に強い衝撃を受けている。「千五百人以上」という合格者数の「政府目標」を下回ったのだ。いわば“定員割れ”が起きたのだ。前例のないことだ。

 目標を半分に下げても到達せず、ついに「定員割れ」

 二〇年の司法試験は新型コロナウイルスの感染拡大で、当初予定されていた五月の試験日を八月に延期して実施された。受験者数は三千七百三人で、前年より七百六十三人少なかった。しかし、これを「コロナの影響」と見ると本質を見失う。実は受験者数は近年五年連続して減少しているのだ。それに伴って合格者数も五年連続で減少し続け、ついに「目標割れ」に至ったのだ。かつて合格者目標は倍の三千人だった。その目標を一五年に千五百人に下方修正したにもかかわらず、それをも下回ったのだ。政府は一九年から大学の法学部と法科大学院を計五年で修了できる「法曹コース」を新設したが、このコースを選択した学生が司法試験の受験資格を得るのは二年先の話。法務省は「その頃には受験者も合格者も増加するのではないか」と期待を繋いではいるが、悲観的な見方が多い。

時代の物差しが急変

 時代の変化は極めて速い。まして「コロナ」により、働き方等、社会の仕組みが根底から変わろうとしている。若者の価値観も大きく変化、かつては就職人気ランキングは銀行や商社が上位を占めたが、近年は外資系やIT企業への就職が人気を集めている。司法試験と同じ国家資格である国家公務員上級試験を受けてのキャリア官僚志望者も減っている。さらに若手官僚の早期退職が相次いでいる。

 社会が様変わりし、従来の仕組みや物差しとのミスマッチが広がっている。世の中の変化は静かに、急速に、しかも構造的に進んでいる。コトは深刻だ。

 

 

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2021年3月 1日 (月)

徒然エッセイ 第46話 君子豹変 文在寅韓国大統領の対日シグナル

  新型コロナウイルス、ワクチン接種開始、東京オリンピック・パラリンピック開催問題、バイデン米新政権の始動、官僚の公務員倫理規程違反・・・・と「ニュースの洪水」が連日、続いている。あまりに情報が多いと、私たちは「情報洪水」の中に埋もれがちになり、見落としがちになるニュースもある。今回はその一つにスポットを当ててみた。

 韓国・青瓦台(大統領官邸)。一月十八日に文在寅大統領の年頭記者会見が開催された。毎年年頭に当たって行ってきた恒例の記者会見だが、今回は「コロナ対応」で参加者は韓国人記者ら二十人だけに絞られた。ただ、日本人記者が一人出席を認められた。そして文大統領がこの記者を指名し、質問を受けた。実は参加した記者にはあらかじめ番号札を配られ、記者は質問する際はその番号札を上げて質問することになっていたため、その番号札の番号から大統領はその記者が日本人であることを承知の上、指名したのだ。

「日本政府に元従軍慰安婦への賠償を認めたソウル中央地裁の判決についてどう思うか」。

 記者は十日前に出た地裁判決が「国家は他国の裁判権に服さない」とする「主権免除の原則」に反すると、国際的に批判が強いことについて質した。文大統領は待ち構えていたように準備された論旨を展開した。

「韓日両国が外交的に様々な対話をしている最中に慰安婦判決が加わり、正直少し困惑している」。

「困惑」はキーワードだ。三権分立を盾に司法には距離を置いてきた従来のスタンスとは大きく異なるスタンスだ。また、文大統領は「韓国政府は二〇一五年の慰安婦問題での両国合意を公式合意と認める」とまで明言した。これも一五年合意を朴槿恵・前政権時代の遺物だとして「白紙化」してきたのを「公式合意」と踏み込んだのだから明確な変化だ。

大統領はさらに関連する事項として徴用工問題にまで言及した。「徴用工に関する判決を受け、強制執行で(日本企業の資産が)現金化され、判決が実現されるやり方は望ましくない」。

 文大統領は元徴用工判決に関しても「司法への不介入」としてきた姿勢を百八十度転換させたのだ。

「君子豹変」と言ってよい。ただ、実は年明けから変化の兆しはあった。文大統領は離任する日本の冨田浩司駐韓大使(駐米大使に転出)と一月十四日に外交儀礼としては異例に長い三十分間会談し、わざわざ記念写真をメディアに公開していた。また、韓国の駐日大使として赴任する姜昌一氏(韓日議員連盟前会長)は「文大統領は信任状を渡す際、東京オリンピックに全面協力すると語った。菅義偉首相との会談にも強い意欲を示した」と記者団に紹介、「コロナ」で開催が懸念される東京オリンピックに「全面協力」を表明したのだ。

42  ただ、これらがバイデン米政権のスタート(一月二十日)の直前だったことに注目したい。米新政権が始動し、バイデン政権から「同盟国同士の日韓関係を良好なものにするように」と注文を付けられる前に、良好な米韓関係構築のためにも「日韓」を改善する考えを打ち出したと見られる。

 また、菅首相との首脳会談に意欲を見せたのは、ジョンソン英首相が六月にイギリスで開催予定の主要国首脳会議(G7)に、インド、オーストラリアとともに韓国もゲスト招待しているため、その際の日韓首脳会談や東京オリンピックが予定通り開催されれば、訪日しての首脳会談まで意識していると見られる。

 文大統領の任期切れは来年五月、憲法上の規程で再選はない。「国交正常化以来、最悪の日韓関係」を何とか修復したいのだろう。さらには一八年の夢の再現まで思い浮かべていると見る向きさえある。一八年二月、韓国・平昌で冬季オリンピックが開催された。文大統領の提案で開会式では統一旗での南北入場行進が実現、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の妹・金与正氏が出席、世界の注目を集めた。そして同年四月の南北首脳会談→六月のシンガポールでの歴史的な米朝首脳会談→翌年二月のベトナム・ハノイでの二回目の米朝首脳会談と繋がり、六月にはトランプ米大統領が大阪での主要二十カ国・地域首脳会議(G20サミット)の後、韓国・板門店を訪問、南北境界線をまたいで北側に入るという“ビッグニュース”と連鎖した。

 結果としては「北の非核化」は全く進まず、米大統領選での再選を意識したトランプ大統領の政治ショーに終わったが、コトの始まりが平昌オリンピックだったことは留意しておきたい。

 文大統領の退任まで一年余、東京オリンピックまでも絡めて「レガシー」(遺産)を求めているようだ。ただ、文大統領のハンドルの切り替えを「対日関係改善への意欲とは受け止めるが、言葉だけでなく具体的行動で示してほしい」(河村建夫・日韓議員連盟幹事長)と、日本側はシグナルに注目しつつも冷静だ。           

 

イラスト : 櫻井砂冬美

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