徒然エッセイ第51話 国会議員「当選無効」でも「歳費有効」の矛盾
公職選挙法では「当選無効」→再選挙だったのに。
衆院解散・総選挙が迫る。前回総選挙から四年近くにもなると、事件やスキャンダルで辞職した議員が実に多い。その筆頭は大規模選挙買収の「河井夫妻事件」だろう。この事件は公職選挙法と国会法、歳費法の根本的矛盾をもあぶり出した。
二〇一九年夏の参院選広島選挙区で、自民党新人の河井案里氏が「当選」した。ただ、この選挙で地元議員らに買収行為を行ったとして、案里氏は夫の河井克行元法相とともに逮捕、起訴された。二人の公判は途中で分離され、案里氏には、東京地裁が二〇二一年一月、懲役一年四カ月執行猶予五年の判決を下した。案里氏は控訴せず、二月五日に有罪が確定、公選法の規定で案里氏は「当選無効」となった。公選法を所管する総務省は「選挙日に遡り、当選していなかった」と解釈した。このため、四月二十五日に「再選挙」となった。同日に行われた衆院北海道二区や参院長野選挙区は議員の辞職、死亡に伴う「補欠選挙」だが、広島だけは「再選挙」と区別された。
国会法、歳費法では「当選は有効」だった
しかし、ここで公選法と国会法の矛盾が露呈する。国会法第百十三条には「議員は資格のないことが証明されるまで議員の地位や権能は失われない」とある。このため、参議院は「河井案里氏は判決確定日(二月五日)に退職したと解釈され、本会議、委員会の出席履歴や採決での賛否は有効」とする。このため、「当選」後の二十カ月間の歳費、賞与、文書通信交通滞在費計四千九百四十二万六千五百十四円の支給も有効だという。確かに歳費法では「議員が『辞職、退職』する日まで歳費を受けることができる」とあり、返還規定もない。しかし、「当選無効」の案里氏は「辞職」したわけではないし、「当選無効」なら参院議員でなかったわけで「返還」の前提である支給根拠がそもそもない。
河井案里氏は逮捕後、一度も登院せず、議員活動もしていない。このため、「拘留中、議員活動をしていなかったのに、歳費を受けるのは納得できない」という“感情論〟が聞かれる。しかし、コトの本質は「議員活動していたかどうか」ではなく、そもそも「当選していた議員なのかどうか」だろう。枝葉の議論に陥ると、本質を見失う。歳費法の改正は先の国会で議論されたが、「議員」の身分保障等を理由に見送られた。自公等で協議が続いているが、次の臨時国会が衆院解散のための国会なら改正は当分、先延ばしとなる。
自治体議員は報酬全額返還 最高裁判決確定
全国の八十三の自治体では、議員の逮捕、拘留等を理由に報酬の支払い停止、減額を条例で定めている(全国市議会議長会)。静岡県焼津市で当選無効となった「元市議」に報酬の全額返還を求めた訴訟では「当選無効者は初めから議員の身分がなく、報酬を受け取る根拠はない」との最高裁判決が確定している。
ちなみに、案里氏の夫の河井克行元法相に対し、東京地裁は六月十八日に「懲役三年」の実刑判決を言い渡した(克行氏は控訴)。その判決文に案里氏が何度も登場するが、案里氏は「元被告」と表現されており、「前参院議員」とは記されていない。
判決文では「元参院議員」を使わず、「元被告」。しかし、参院は「元議員バッジ」交付
しかし、国会は別世界のようだ。衆参両院ともに引退した議員には「前議員バッジ」を申請により交付している。自由に国会に入れ、本会議や委員会を傍聴することも可能だ。案里氏は手際よくバッジを申請、すでに交付を受けている。あくまで国会の世界では案里氏は「前参院議員」なのだ。公選法では「初めから参院議員ではなかった」はずの河井案里氏は、国会法、歳費法ではいまも「参院議員だった」のだ。
公選法と国会法、歳費法は明らかに矛盾している。否、「衝突」している。これを放置したままで、総選挙で国民の信を問うのか……。
イラスト : 櫻井砂冬美
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