« 2021年8月 | トップページ | 2021年10月 »

2021年9月

2021年9月29日 (水)

徒然エッセイ第49話 日本 食料自給率「最低」の怪

 農林水産省は八月末に二〇二〇年度の食料自給率を「三七%」と発表した。「過去最低」と強調、危機感を煽っている。しかし、真相はどうなのか。確かに食料は自前で確保できればベストだが、それは日本という国にとって現実的なのか。

 食料自給率とは国内で消費する食料のうち、国産でどの程度賄えているかという割合だ。今回の三七%は記録的なコメの凶作だった一九九三年、天候不順で国内の小麦生産量が落ち込んだ二〇一八年と並ぶ「最低タイ」なのである。三七%は、裏返せば六三%は外国からの輸入に頼っていることになり、一見深刻そうだ。

カロリーベースと生産額ベース

 ただ、実は自給率には食料の重量を熱量に換算した「カロリーベース」と、金額に換算した「生産額ベース」がある。農水省が「最低」を強調するのは「カロリー」であり、「生産額」ではむしろ昨年より一%上昇し、六七%で結構いい数字なのだ。トリ肉、豚肉、野菜、果物等の国内生産が増加し、自給率アップとなった。

 生産額ベースの方が国際的に広く認知されている指標であり、農水省が重視する「カロリー」はむしろ少数派なのだ。しかも国内生産が多いトリ肉や豚肉はその飼料が輸入の場合、その比率に応じてトリ肉を輸入に案分計算している。このため、「カロリーベースは政策論としては意味を持たない」と指摘する学者もいるほど。にもかかわらず、農水省が「カロリー」を重視するのは「日本農業の保護」政策に繋げたいためで、三〇年度に四五%へ高める目標を掲げている。

 発想を変えてみよう。農水省は今回、一九年度の都道府県別のカロリーベース自給率も発表した。北海道が二一六%で三年連続トップ、東京都は数値としてはゼロだった。しかし、誰も東京のゼロを問題視しない。それは北海道等の生産地から確実に食料が供給されるからだ。これを国に置き換えると、供給元を確保しておけばよいことになる。もちろん、外国からの輸入の場合、紛争等で供給が止まることがあるが、供給元を複数確保しておけば特段問題はない。

           イラスト・櫻井砂冬美


対ソ穀物禁輸はアメリカ国内で瓦解

 かつてソ連(当時)がアフガニスタンに軍事侵攻した際、アメリカは対ソ穀物禁輸で制裁した。しかし、ソ連はオーストラリアやカナダからの輸入でカバーし、困窮することなく、逆にアメリカ国内で穀物がダブつき、価格が暴落して、国内農業団体の突き上げで米政府は対ソ禁輸を解除せざるを得なくなった。

 グローバル化した世界で「自給自足」は非現実的だ。シンガポールは何と飲料水までマレーシアから輸入している。食料の供給ルートの多様化こそが、より現実的な食料安全保障だ。

「自給」にこだわるよりもスーパーやレストラン、家庭での食品廃棄こそ問題視すべきではないのか。統計上、「廃棄」も「消費」にカウントされ、自給率を下げている。食品ロス防止は誰もができるSDGs(持続可能な開発目標)への貢献だ。

 

| コメント (0)

2021年9月 9日 (木)

徒然エッセイ第52話 コロナ禍の総選挙 「振り子」の振れ幅は?

「これまで経験したことがない爆発的な感染拡大で、もはや災害級だ」。新型コロナウイルス第五波への最大級の警鐘が乱打される中、「東京二〇二〇オリンピック・パラリンピック」はとにもかくにも全日程を終えた。日本の若者は史上最多のメダルを獲得、国民は「コロナ」を気にしながらも、テレビが伝えるメダルラッシュに喝采し、アスリートの絆、涙、ドラマに素直に酔いしれ、パラリンピックに新たな発見と感動を覚えた。「スポーツのチカラ」の強靭さが改めて確かめられた。様々な意味で「東京二〇二〇五輪」は前例のない形のレガシー(歴史的遺産)として語り繋がれるだろう。

「東京オリンピックが終わり、ワクチン接種が進めば国民の不安は和らぐ」。こんなシナリオを描いていた菅義偉首相。しかし、そのシナリオが崩れた。五輪が終わっても、コロナ禍での国民の不安と不満、人によっては「怒り」は残り、菅首相を退陣に追い込んだ。秋に行われる総選挙で国民の審判を受けることになるが、自民党の新たな布陣のもと、政府・与党は「この指とまれ」と国民に支持を求めるのか、野党は「あの指(政府・与党)に不満のある人集まれ」と反作用を狙うのか──。

 保守合同(一九五五年)による自民党結党後の日本政治は、ロッキード、リクルート、東京佐川急便事件等の政界疑獄事件と、税、年金等、生活密着課題で「民意の振り子」が振れ、政権交代が繰り返されてきた。

「ヤマは動いた」が・・・

 長く単独政権を堅持してきた自民党は八三年の「ロッキード事件田中角栄有罪選挙」で過半数割れし、新自由クラブとの連立を余儀なくされた。八九年には初めて消費税(三%)が導入されたが、竹下登首相はリクルート事件で退陣、後継の宇野宗佑首相の女性問題も加わり、「消費税 、リクルート、スキャンダルのトリレンマの参院選」(橋本龍太郎幹事長)で自民党は大惨敗、参院で与野党が逆転した。「一円玉(消費税)と女性が政局を鳴動させた」といわれた。

 ただ、当時の土井たか子率いる社会党という指に有権者が結集したというよりは「自民党を懲らしめる」反作用だった。土井委員長は「ヤマが動いた」と大見えを切ったが、いつしかヤマは姿を消していく。

 九三年には宮澤喜一政権が政治改革で失速し、総選挙後に八党派連立で細川護熙政権が誕生、自民党が初めて下野したが、八党派の内部崩壊、国民福祉税導入失敗、細川首相の東京佐川急便からの一億円借り入れ事件が重なり、あっけなく崩壊した。

 二〇〇七年、第一次安倍晋三政権は「消えた年金」問題と体調不良で一年で退陣、その後の福田康夫、麻生太郎政権も一年で細切れ交代、呆れた国民は〇九年総選挙で鳩山由紀夫代表が率いる民主党を圧勝させた。しかし、こちらも鳩山→菅直人→野田佳彦と短命政権のリレーが行われ、民主党政権の稚拙さが一二年の第二次安倍政権へと振り子を戻させたといえよう。

 今回の総選挙は前回(一七年)から四年近い。この間、法務相、経済産業相、農林水産相らが「政治とカネ」で議員辞職、事件には至らないスキャンダルは枚挙にいとまがない。

 コロナ禍で、国民は不安と不満と東京オリンピックの残響の中にいる。菅首相の退陣、新総理・総裁の誕生により、「世論」はどう受け止め、振り子の振れ幅はどのくらいになるのか。それを決するのは自民党を凌ぐ「第一党」の無党派層だろう。(一部文中敬称略)

 

| コメント (0)

« 2021年8月 | トップページ | 2021年10月 »