徒然エッセイ第58話 G7開催地 「本命・広島」かサプライズか?
先進七カ国首脳会議(G7サミット)が来年日本で開催される。その招致に名古屋、広島、福岡市が立候補している。岸田文雄首相の地元・広島が本命との見方がある一方、「岸田首相は『我田引水』を避けるのでは」との見方もあって「過去三回のような“サプライズ”決定があるかも」と憶測も広がっている。
サミットの歴史を紐解いてみよう。一九七三年の第一次石油危機を受けて、ジスカール・デスタン仏大統領が提唱し、「石油ショックに伴う世界経済危機」をテーマに、七五年にパリ近郊の古城「ランブイエ」で初めて開催された。米国からフォード大統領、日本からは三木武夫首相が参加した。当初は米英仏独日の五か国で開催する予定だったが、イタリアが「我が国も」とねじ込み、G6でスタートした。翌年、カナダが加わりG7に、九八年にロシアの参加でG8になる。しかし、二〇一四年のロシアがウクライナのクリミアに侵攻したため、ロシアを除外、G7に戻った。
開催は各国持ち回り。日本開催の一九七九年、八六年、九三年は東京の迎賓館が会場で、何人かの首脳の宿泊は警備面から堀に囲まれたホテル・ニューオオタニだった。
九州・沖縄サミットへの小渕首相の思い
その後、開催地決定を巡り“サプライズ“が相次ぐ。二〇〇〇年のサミットでは某全国紙が「福岡開催有力に」と一面で大きく報道。だが、小渕恵三首相(当時)が発表したのは「沖縄」。首相が沖縄振興に心を砕いてきたことや、会場が名護市の海に面した岬の先端のホテルなら、警備上問題が少ないことが決め手となった。ただ、福岡や宮崎も招致に名乗りを上げていたので、首脳会議前の閣僚会合の開催地となり、この年のサミットは「九州・沖縄サミット」とネーミングされた。小渕首相はサミット記念に沖縄の守礼門をデザインした二千円紙幣の発行も決め、現在でも沖縄では使われている。それほど沖縄に思い入れの強かった小渕首相だったが病に倒れ、沖縄サミットの議長は後継の森喜朗首相(当時)が務めた。
京都案却下→洞爺湖へ
〇八年サミットは外務省が「京都」を推薦。その理由は①京都迎賓館が完成したばかり②環境問題がサミットの主要テーマに予定され、かつて国連が地球環境保全に関する「京都議定書」で合意した京都なら最適③各国首脳に『京都』という日本文化の真髄に触れてほしい・・などだった。しかし、京都迎賓館の隣接地に某大学があり、「ゴムパチンコで変なものを飛ばされるとまずい」と警察庁が警備面から同意しなかった。結局、最後発で立候補した北海道・洞爺湖に決まった。「湖を見下ろす山のてっぺんに建つウィンザーホテルだと山に登る道は二本しかない。裾野の入口で検問すれば警備上問題ない。それに北海道の原始林の中のホテルなら、環境サミットに最適だろう」(武部勤・元自民党幹事長=北海道選出)という判断だった。こちらも決定は第一次安倍晋三内閣だったが、安倍首相(当時)が退陣、サミット議長は次の福田康夫首相(当時)となった。
官邸が逆要請の「伊勢志摩」
前回の一六年サミットは仙台、軽井沢、名古屋、神戸、広島等、七都市が立候補したが、締め切り直前に首相官邸から三重県に対し「志摩」での招致に名乗りを上げるよう逆要請があった。会場となる「志摩観光ホテル」は英虞湾に面する賢島にあり、市街とは二本の橋で繋がっているだけで警備上心配ない。山崎豊子の「華麗なる一族」の舞台となり、文化勲章受章者の村野藤吾氏の設計で、皇族も宿泊される超高級ホテルだ。その上、安倍首相の「伊勢神宮」への思い入れともマッチした。こうして名称も「伊勢志摩サミット」となり、いわば“後出しじゃんけん組”が招致に成功した。
決めるのは警察庁と首相
今回、立候補している広島は、オバマ米大統領(当時)やローマ教皇の訪問、G7外相会議等、警備経験は十分にある。会場に予定している「グランドプリンス広島」は三面を瀬戸内海に囲まれ、島に近い。毎年8・6の原爆慰霊式に参加する首相や外国大使が宿泊する等、警備面でも優位だ。ただ、名古屋はG20外相会合、福岡はG20財務相会議を開催したことがあり、警備面では特段劣ることはない。
ただ、広島が政府に提出した要望書では「万一、首脳会議が広島でない場合、外相会議を誘致したい」としている。これは岸田首相が「核兵器のない世界に向けた国際賢人会議」を二〇二二年中に広島で開催すると施政方針演説で打ち上げたこととも絡めて憶測を呼んでいる。「賢人会議もG7も広島ということはあり得るのか」という懸念が地元広島にはあるようだ。そもそも、核保有国の米英仏の首脳が「被爆地サミット」を受け入れるかどうかも明確でない。今回もサプライズが再現する可能性がなくはないのだ。
いずれにしても今年六月のドイツ・エルマウでのサミットまでには決めなければならない。「我田引水」かサプライズか、決めるのは岸田首相であり、警察庁警備局でもある。
イラスト : 櫻井砂冬美
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