以下の原稿は月刊ビジネス雑誌『リベラルタイム』の2023年8月号に「SPECIAL CONVERSATION」として、公明党の山口奈津夫代表とG7広島サミットの成果について対談した記事を転載したものである。(対談日は6月2日)
<タイトル>
「オバマ米大統領」を広島に呼び寄せた男 三山 秀昭
広島大学特別招聘教授・広島テレビ放送顧問
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山口 那津男 公明党代表
<リード>
ウクライナ戦争の長期化に伴い、核の脅威が増しつつある中、五月十九日から二十一日まで、被爆地・広島でG7サミットが開催された。
核廃絶、ウクライナ和平に向けて、いま日本が果たすべき役割とは?
<プロフィール>
- みやま・ひであき/1946年富山県生まれ。早稲田大学卒業。読売新聞社入社後、政治部、ワシントン特派員、政治部長等を経て2011年広島テレビ社長。会長、最高顧問、現顧問。広島日仏協会会長。著書に『オバマへの手紙』(文春新書)、『ブランチにニュースなコラムを』『世界のリーダー185人 ヒロシマ、ナガサキで発した「言葉」』(ともに南々社)等。小誌にて「ブランチにコラムを」を連載中。
- やまぐち・なつお/1952年茨城県生まれ。78年東京大学法学部を卒業後、82年弁護士登録(東京弁護士会)。90年に公明党公認候補として、衆議院議員総選挙に出馬し初当選(当選2回)。2001年参議院議員初当選(当選4回)。以来、党参院国会対策委員長、党政務調査会長、防衛政務次官、参院行政監視委員長等を歴任。09年から党代表を務める。
<本文>
広島開催に至るまでの道
三山 G7(先進七カ国)広島サミットが開催されましたが、多くの人から「『オバマ米大統領の広島訪問』があったからこそ広島サミットが開催できた」といわれます。私も二〇一六年五月に、当時のオバマ大統領が広島を訪問したことが今回のサミットに繋がったと思います。
現職の米大統領を広島に呼ぶことは非常にハードルが高く、アメリカでは「原子爆弾の投下への謝罪を求められるのではないか」と捉えられてしまうのです。
五月十九日のNHKテレビ「アナザーストーリーズ」でも放送されましたが、私が広島テレビ放送の社長を務めていた時、オバマ大統領に広島を訪問してもらおうと老若男女、一千四百人もの広島市民に「オバマへの手紙」を書いてもらいました。驚いたのは、アメリカに謝罪を求める声が少なかったことです。被爆者団体協議会の坪井直理事長も「謝罪のハードルを課すのは核廃絶への近道ではない」とはっきりおっしゃいました。
もう一つ大きかったのは森重昭さんの存在です。森さんは被爆者であるにもかかわらず、ライフワークとして捕虜だったアメリカ兵が原爆で亡くなっていた事実を自ら地道に調べ、アメリカにいる遺族にその真相を伝える活動をしていました。
私は広島市民の声、そして、森さんのような人がいるということを、一四、一五年の二回、ホワイトハウスを訪れて伝え、オバマ大統領の広島訪問を訴えたのです。
山口 一〇年、当時のルース米駐日大使がアメリカの大使として始めて広島での平和記念式典に出席されましたが、その後、公明党は一三年に党として訪米しました。
私は米外交のブレーンの一人だったキッシンジャー元国務長官と面会し、「オバマ大統領に、来日する機会に広島もしくは長崎を訪問するようお願いして頂けませんか?」と要望したところ、「提案があったことは伝えますが、判断するのは大統領自身です」という回答でした。
ですから、オバマ大統領の広島訪問を決定的に導いたのは、やはり三山さんの行動だったと思います。当事者性のある人が直接働きかけたことで、ホワイトハウスも気持ちを動かされたのではないでしょうか。
三山 オバマ大統領が広島を訪問したのは任期終了間際の八年目です。アメリカ国内の政治リスクが小さくなったことも実現を後押ししました。
しかし、バイデン米大統領は就任から三年半、しかも、来年、再選を目指す中で広島を訪れた訳ですから、オバマ大統領の先例がなければ、G7首脳の原爆資料館見学、慰霊碑の献花は難しかったと思います。
サミットの成果と課題
三山 広島サミットの成果については、識者、メディア、被爆者等で事前の期待値が異なりますから、主観的な評価もそれぞれ異なるのは当然ですが、私はサミット開催の前後をファクトだけで客観的に比較することにしています。
すると、サミット前に広島を訪れた核保有国のトップは、アメリカ(オバマ大統領)だけでしたが、今回はアメリカのバイデン大統領、フランスのマクロン大統領、イギリスのスナク首相、それにインドのモディ首相も来ました。さらに、ドイツ・ショルツ首相とイタリアのメローニ首相はNATO(北大西洋条約機構)の核シェアリングに含まれる国です。これは大幅な進歩です。
そして、被爆の実相に触れるという点では、G7トップの「原爆死没者慰霊碑への献花」「広島平和記念資料館の視察」「被爆者の証言を直接聞く」という三つが揃いました。
山口 やはり、G7各国首脳が揃って資料館を訪れ、被爆者の証言を聞き、原爆死没者慰霊碑に献花したことは、かなりのインパクトを与えたと思います。また、G7のみならず、韓国やオーストラリア、グローバルサウスの国々を含めた招待国八カ国の首脳、なによりウクライナのゼレンスキー大統領が広島を訪れたことは大きな成果です。
そして、岸田文雄首相と尹錫悦韓国大統領がともに平和記念公園の韓国人原爆犠牲者慰霊碑に献花したことも歴史的な出来事です。
三山 首脳宣言で注目すべきは、初めて核軍縮に関して独立した文書「広島ビジョン」が出されたことです。目標として「核なき世界(=核廃絶)」を打ち出しましたが、「核廃絶に向けたロードマップが示されていない」という批判があります。
しかし、核廃絶は一足飛びには実現できません。ロシアや中国、北朝鮮等と一緒に取り組まなければいけないことです。G7側から一方的にスケジュールを提示するのではなく、山積する課題を一つ一つ、片付けていかなくてはいけません。
山口 私なりに「広島ビジョン」を読み解きますと、全ての人々の安全を損なわない形で、現実的に核保有国が核軍縮と核不拡散に取り組んでいく点が強調されていたと思います。「核の使用や威嚇に反対する」コンセンサスも得られました。
公明党は広島サミットに先立ち、岸田文雄首相に「核の使用や威嚇は許されない」ことをしっかり宣言し、核の先制不使用への道を開くべき、という提言を申し入れており、それらが一定程度反映されたものとして評価しています。しかし、「核の先制不使用」については明記されておらず、さらに歩みを進める必要があります。
三山 岸田首相は、ずっと「ウクライナは明日の東アジアだ」といい続けてきました。日本がウクライナ問題に真剣に取り組まないと、仮に台湾や朝鮮半島等で有事が起こった際、ヨーロッパ諸国から「それはアジアの問題でしょう」といわれてしまいかねないからです。
山口 広島サミットでは中国については、対話して懸念を率直に伝え、グローバルな課題については協調していくとする等、分断を広げようとするのではなく、歩み寄ろうという意思が示されたという認識です。
昨年十一月、岸田首相と習近平国家主席がタイで会談し、今年四月には林芳正外務大臣が訪中しました。政党外交や民間交流等、幅広いレベルで日中間の交流を進めていこうという流れができつつあります。
ウクライナ和平に向けて
山口 ウクライナ戦争の終結に向けては、「もう戦いはやめなさい」という国際社会の雰囲気を醸成していくことが大事だと思います。
広島サミットでは、ウクライナのゼレンスキー大統領が出席したこともあり、G7が結束する必要がありましたから、日本も人道支援に結びつくこと、将来の復興に繫がること、あるいは殺傷力のない自衛隊の資材運搬車を供与するといった面で支援を申し出ました。
一方で、グローバルサウスにも重きを置き、「法の支配」の重要性を強調しました。これは全世界に通用するルールであり、また、気候変動や脱炭素、食糧危機、感染症対策といった様々な地球規模の課題についても支援を強く打ち出しています。
日本がリーダーシップを発揮して、グローバルサウスの国々への支援の姿勢を見せたことで、ウクライナ和平の機運を高められたと思います。
三山 その通りです。だからこそ今回、インドを呼んだ意味が大いにあった訳です。インドは今年九月に開催されるG20サミットの議長国で、G20にはロシア、中国も含まれます。
広島サミットはインドの他に、ブラジル、アフリカ連合議長国のコモロ、インドネシアも参加しました。これらグローバルサウスの国々は、ロシアのウクライナ侵略を批判はしていますが、制裁には加わっていません。ロシアを助けることだけは思いとどまっていることが重要なのです。
ですから、山口代表がおっしゃるように、日本はもっとグローバルサウスの国々に働きかけて、和平に向けた外交努力をするべきです。
山口 中国やロシアも参加するG20をインド一カ国だけで仕切ることは難儀するでしょう。広島サミットを通じて、G20サミットでインドを側面からサポートする素地もできたのではないでしょうか。
三山 戦況の予想は脇に置いて、いずれどこかのタイミングで和平の時がきます。広島、長崎、そして関東大震災や東京大空襲から復興した東京、阪神・淡路大震災から復興した神戸、東日本大震災からの復興が続く東北……これほどまでに復興のノウハウを持っているのは日本だけでしょう。ウクライナの復興には日本の力が欠かせないはずです。
山口 他にも、いまウクライナ側から日本が開発した地雷除去機を提供してほしいという依頼がきています。ウクライナの技術スタッフが日本に視察に来ましたが、この地雷除去機の政府開発援助(ODA)を通じた世界各国への供与を一貫して進めてきたのは公明党なのです。
日本が果たすべき役割
山口 今回、残念ながらNATOやOSCE(欧州安全保障協力機構)といった組織が機能しきれずにウクライナで戦いが起きてしまいました。
ヨーロッパにおいて対話による安全保障を維持する枠組みをつくり直すことが必要です。一方、アジアではARF(東南アジア諸国連合地域フォーラム)等はありますが、対話の取り組みが十分とはいえません。
日本がリードしてアジア各国の首脳が集まるような常設の機関をつくり、できれば本部を日本に設けてはどうかと考えています。
三山 第二次世界大戦の話をしますと、一九四五年三月の東京大空襲で死者十万人が出ても、五月にドイツが降伏しても軍部は戦争継続を強硬に主張しました。誤解を恐れずにいえば、あの時に決断していれば沖縄戦での想像を絶する損失、広島も長崎もなかったはずです。これは決して「ウクライナに現状で停戦しろ」といっている訳ではありません。戦争の最中であっても、和平の糸口を探そうとするのは責任ある政治家の使命だということを申し上げたいのです。
山口 今後、戦況が泥沼化すれば互いの損害が大きくなることは明らかです。両国を含め世界が想像力を働かせ、この戦争を終わらせて復興のプロセスに移っていけるように模索し続けるべきです。
私は、プーチン露大統領は容易に核のボタンを押すことはないと考えていますが、誰も押さないと明言することはできません。核を使わせないように、ロシアを追い詰め過ぎないという視点も大事です。
日本は唯一の戦争被爆国であり、平和主義をうたう憲法九条があります。公明党は、先の岸田首相への提言で、今年十一月に開催される第二回核兵器禁止条約締約国会議に日本がオブザーバー参加し、核保有国と非保有国との間の「橋渡し」の役割を果たすよう促しています。政権与党としてウクライナ和平と戦後復興、そして核廃絶のために、日本だからこそできることをしっかりと進めていきたいですね。