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2025年3月 3日 (月)

第110話 石丸伸二氏にまつわる「2つの裁判」と「1つの民意」

 今年は4年ごとの都議選と3年ごとの参院選が重なる年。4と3の最小公倍数は12で、12年に1度の巡り合わせの年だ。12年前は前年暮れに「安倍(晋三)自民党」が民主党から政権奪還した勢いで参院選で勝利、「衆参ねじれ」を解消した。その12年前は「小泉(純一郎)自民党」ブームの中で勝利している。さて、今年はどうか? 

 その参院選を占うのが東京都議選。そこで注目されるのが、昨年の東京都知事選で一躍名を馳せた石丸伸二氏だ。地域政党「再生の道」を旗揚げ、42全選挙区に候補者を擁立するという。ただ、「再生」は政党なのかどうか・・・。「任期は2期8年まで」が「鉄の掟」で、いわば「綱領」だ。「基本政策の軸」もなく、党議拘束もないという。公募で候補者を決めるが、選考は3段階で行われ、書類、WEBでの適性検査の後、最終面接は「私(石丸氏)と15分のワン・オン・ワンでの公開対談で決める」という。一応、誰でも“受験”可能で、現職都議ならそのまま合格。自民党、共産党員でもOKで、当選後もそのままでよいというから驚きだ。ただ、石丸氏自らはあくまで面接試験官に徹し、出馬しないのだとか。

 さて、東京都民は「石丸伸二」という人物の実像をどこまでご存じなのか。地元広島からレポートする。彼は広島県安芸高田市生まれ。島根県境の人口2万6千人の降雪地帯で梨畑が広がる。「三本の矢」で有名な戦国武将・毛利元就の本拠地だ。

 この地で2020年7月、児玉浩市長が頭を丸刈りにして謝罪の記者会見を行い、市長を辞任した。その年の春に当選したばかりだった。前年の参院選で自民党の河井案里候補の支援を頼まれ、夫の河井克行衆院議員から現金計60万円を受け取ったことを認めたのだ。突然の市長辞任を受けて、メガバンクでアメリカ勤務のキャリアを持つ石丸氏が「副市長の無投票当選阻止」を掲げて立候補し、圧勝、当選した。

 穏やかな町は、以後、新人市長と議会の対立、混乱の渦に巻き込まれていく。「創造的破壊」路線を突っ走る若き市長と、議会との対話を求める市議会が何かにつけて対立。議場では市長が「恥を知れ!」と罵り、怒号が飛び交い、市長は地元紙とも“場外乱闘”、地元民放がドキュメンタリー映画をつくるほど「毎日が劇場」の連続だった。

 しかし、24年5月、石丸市長は任期途中で「投げ出して」(市議)辞任し、東京都知事選出馬へと鮮やかな転出を試みた。現職の小池百合子氏にはさすがに及ばなかったが、立憲民主党支援の蓮舫氏には大差をつけ、一躍「時の人」になった。SNS駆使の選挙戦略が注目され、一部メディアから「日本の選挙を変えた男」と持ち上げられた。

 ただ、ここで地元広島から、2つの裁判と民意の結果を紹介しなければならない。第1の裁判は市長選出馬時のポスター代の支払い問題での争いごと。石丸氏が選挙ポスターやチラシ代の一部しか支払わないため、広島市の印刷業者が差額約73万円の支払いを求めた裁判。石丸氏は「公費負担の上限だけを報酬として支払う合意があった」と主張したが、広島地裁は「営利企業が赤字を厭わず業務を請け負う理由に乏しく、業務に見合う報酬を支払うのが相当」との判決、二審も全く同じだった。石丸氏は上告したが、最高裁はそれを退け、石丸氏の敗訴が確定した。ただ、最高裁決定は都知事選投票日前だったが、なぜか報道は都知事選での敗北後だった。

 2つ目の裁判は、市長当選後の20年10月、市議会全員協議会が舞台。「議会を敵に回すと政策が通らなくなりますよ」という発言(事実は確認されていない)があったと受け止めた市長は、山根温子市議の発言と決めつけ、「恫喝を受けた」とSNSで徹底批判した。山根氏は「事実無根」と名誉棄損で訴えた。こちらも一、二審とも「録音データ等から山根市議が『恫喝』発言をしたとは認められない」との判決、市長のSNSでの山根市議批判は「公務」だとして、市当局に33万円の支払いを命じた。市は上告しなかったため裁判は終結した。

 石丸辞任に伴う市長選は「石丸市政の継続」を訴えた候補が、「石丸市政の刷新と市議会、市民との対話」を訴えた候補に大差で敗北、民意の選択は明確に「反石丸」と出た。新市長の誕生で「石丸時代」に停滞していた市政は、いま、落ち着きを取り戻している。一方、都知事選でSNSを駆使した選挙戦略は「石丸モデル」と注目され、今度は今年の都議選での「再生の道」の挑戦に繋がる。ただ、2月になって昨年の都知事選で石丸陣営の公職選挙法違反の疑いが浮上、石丸氏も「一部不適切なことがあった」と認め、風向きは変わりつつある。

 これまでも新党はとかく国政でも注目されて躍進することが多い。しかし、時を経て萎んでいった例も数えきれない。『日本経済新聞』の最近の世論調査では「石丸新党」に「期待する」が33%、「期待しない」が58%。この数字をどう読むべきか……。

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