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2025年4月

2025年4月21日 (月)

第113話 JR東海さま 「富士山アナウンス」は無理ですか?

 二月の終わり、広島から東海道新幹線で上京した時のこと。指定席は東京に向かって右側窓際だった。疲れた身体を背もたれにゆだねながら、ぼんやりと車窓の外に流れる風景を眺めていた。

「エエーッ」。驚いた。何と右側(海側)に富士山が見えるではないか。「まさか」と思い、もう一度、車窓に目を凝らした。遠景だが、やはり右手に霊峰・富士が見える。雪を抱いた頂上から裾野が広がっている。しかし、すぐにその富士山は視界から消えた。

 しばらくして車掌が通りかかったので聞いてみた。「先ほど右手の海側に富士山が見えたような気がしたのですが、違いますか? 左側の富士山が窓に反射していたのですかね」。車掌は笑顔で答えてくれた。「いえいえ、反射ではありません。間違いなく富士山ですヨ。見えましたか。それはそれはラッキ―でしたね。なかなか見えないんですよ」

 後日、調べてみて、コトの真相がわかった。東京への上りだと、掛川を過ぎ、静岡に向かう途中で、いくつかトンネルを抜ける。沿線には大手メーカーの工場が並ぶ。そして大井川鉄橋を渡ってまもなく「ラッキーな現場」に差し掛かる。この辺りでは新幹線は東ではなく、カーブを切りながら北へ進む。その角度の関係で、少し遠景ではあるが左()側にあるはずの富士山が右(海)側に見えるのだ。わずか三十秒ほどではあるが、“つかの間のサプライズ“だ。東京からの下りだと、静岡を過ぎて安部川鉄橋を渡った後だが、座席の向きの関係で、後ろを振り向かないと見えにくいという。

 このラッキーに出会うにはいくつかの条件をクリアしないといけない。当然、雨や曇りの日は見えない。麓が晴れていても富士山を雲が覆っていれば見えない。霞やモヤ、霧がかかりやすい春や夏よりも秋から冬の方が条件はよい。晴れていて前日に雨が降ったりして空気が澄んでいる日がよい。午前よりも午後、特に夕方がベストなのだという。それは富士山が夕陽に映え、赤く染まると遠くからでも見通しやすいからだ。しかし、これらの条件がそろったとしても、運悪く大阪に向かう下りの新幹線(海側を走る)がすれ違うと視界が遮られてしまって見ることができない。

 感動のサプライズから数日後、JR東海の広報部に取材を試みた。「先日、上りの新幹線で右手に富士山が見えました。調べたらかなり珍しいことだと分かりました。ああいう時は車内アナウンスでお知らせすれば乗客も喜ぶのではないですか」「いえ、原則的にアナウンスはしておりません」「どうしてですか?」「お客様は車内では休んでおられたり、読書されていたり、それぞれ個人の時間を過ごされていますので、アナウンスでお邪魔にならないように控えております。それに富士山が見えるのはごく短い時間ですので」「しかし、車内販売や乗換案内、ダイヤの遅れなどではアナウンスしているではないですか。東京と大阪をビジネスで何度も利用している人でもこのサプライズを知らない人がほとんどだと思うけどね」「鉄道マニアの方はすでにご存じです」「飛行機では『まもなく富士山が綺麗に見えます』というアナウンスしていますよ。乗客へのサービスだと考えてはどうですか」「貴重なご意見として承っておきます」。いつまでも鉄道の線路のように平行線のままだった。た。

 江戸時代の浮世絵師、歌川広重の「東海道五十三次に「吉原 左富士」という作品がある。当時、江戸から京へ向かう旅の途中、東海道を西に向かうと吉原(静岡県)の宿への道は大きく湾曲し、右に見えたのだ。広重はこの珍しい風景が興に入り、その感動を一枚の浮世絵に描いたのだ。

 「旅すがら」という言葉がある。昔も今も、「旅」はその目的地だけを楽しむのではなく、その途中も「旅」なのだ。感動すれば土産話にもなる。

 拝啓 JR東海さま。右富士、左富士に限らず、エアラインのようにアナウンスを乗客へのサービスと考えられませんか?「原則的にしない」という「原則」なら柔軟に考えられませんか?

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