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2025年12月

2025年12月29日 (月)

第127話 憂鬱な2026年のアメリカ

 アメリカは2026年に「建国250年」の歴史的な節目を迎える。ただ、祝賀の年になるはずが、「トランプのアメリカ」では騒動のタネは尽きない。1年前、ドナルド・トランプは米大統領経験者として132年ぶりに返り咲きを果たした。就任時年齢は前任のバイデンよりも高齢な78歳7カ月、歴代最高齢大統領記録を更新中だ。行政と軍に加え、上下両院も共和党が過半数を確保し「トリプルレッド」となり、司法の最高裁も保守派6人対リベラル派3人だ。1期目と違い閣僚やホワイトハウスの側近らは「絶対服従の忠臣」で固め、誰も異論を差し挟めない。トランプは「白い家」で帝王然と君臨している。就任10か月で217本の大統領令に署名し(バイデン前大統領は4年間で162本)、議会の議決を経ずして、思いのまま権力を行使している。

 大言壮語癖はつとに有名だが「大統領就任後24時間でウクライナ戦争を停めてみせる」は空証文となっている。連日発する「片言隻句」は「変幻隻句」と揶揄される。

 彼はこの1年間、「TARIFF」(関税)を武器に「DEAL」(取引)に挑んだ。さすがに中国には「レアアースの対米禁輸」で反撃され、歯が立たなかったが、EUや日本、アジア諸国との交渉ではブラフでぶち上げた高関税率を下げて決着させた。しかし、アメリカ国内では当然ながら物価高を招き、支持率はダウン傾向、最近は与党・共和党からもトランプ離れが出始めている。“トランプ流〟は国際的にもヨーロッパやグローバルサウスの反発を招き、その間隙に中国が触手を伸ばし、マクロン仏大統領が25年暮れに中国を訪問、26年にフランスで開催されるG7サミットに習近平国家主席をゲストとして招くことも検討されている。英独首相も26年中には中国詣での予定だ。中国には「トランプはなんともありがたい」存在なのだ。中東ガザでは何とか停戦合意にはこぎ着け、「ノーベル平和賞」を所望したが叶わず、合意後もガザでは数百人以上がイスラエルの攻撃で戦死する事態が続いている。

 26年のアメリカのカレンダーでは7月4日(独立記念日)と11月3日(中間選挙)が特異日だ。7月4日は「建国250年」の歴史的な記念日となる。アメリカ北東部のイギリス植民地が、フランスの支援を受けてイギリスと独立戦争を戦い、アメリカ合衆国が建国された。

 トランプ大統領は建国250年を大々的なイベントで盛り上げる予定だ。ただ、個人的虚栄心が透けて見えるのがいただけない。アメリカの1セント硬貨にはエイブラハム・リンカーンの肖像が刻まれているが、トランプはすでにその製造を終了させた。代わっ1ドル硬貨に自らの肖像を刻印、建国250年記念硬貨として発行する予定だ。リンカーンは南北戦争で分断されたアメリカを統一、奴隷制を廃止し、「人民の人民による人民のための政治」で民主主義を定着させた第16代大統領。「建国の父」のジョージ・ワシントン初代大統領(1ドル紙幣に肖像)と並ぶ「偉大な大統領」と尊敬を集める。そのリンカーンを退場させ、現職大統領が自ら肖像を新たな硬貨に刻もうというのだから、その臆面のなさはブラックジョークをも超える。「建国250年」がMAGA(Make America Greate Again)がリンクし合い、人種差別やアメリカ社会の分断をさらに増幅させないか懸念される。

 中間選挙は大統領の与党が議席を減らすのがこれまでの通例だ。2001年のアメリカ同時多発テロを受けてアメリカ国民が団結し、翌年の中間選挙でブッシュ大統領(子)の与党共和党が勝利したのは数少ない例外だ。現在、両院とも共和党が過半数を占めているが、過半数ギリギリの下院で崩れれば自らのレイムダックに繋がるだけに、いま、下院で共和党に有利な選挙区の区割り変更(ゲリマンダー)に懸命だ。

 トランプ大統領は4月に中国を訪問する。アメリカ農産物の大量輸出等、アメリカ有権者の琴線に触れる成果を得て、中間選挙へのバネにしたいと計算している。だからこそ高市早苗首相の存立危機事態での国会答弁で日中関係が険悪化していることはトランプ大統領には“不都合なこと”のだ。そこでトランプの方から高市首相に電話をかけ、「中国を刺激しないで」と牽制したのも、自ら訪中成功に向けて障害物を取り除いておこうという狙いによるものだ。

 アメリカは25年の南アフリカでのG20サミット(主要20カ国・地域首脳会議)をボイコットしたが、26年はアメリカ開催だ。トランプはフロリダ州の自らの別荘での開催を目指している。かつてG7サミットでも同じ構想を練ったが、トランプ嫌いのドイツのメルケル首相が新型コロナウイルスを理由に断り、お流れになり、結局は「オンライン開催」になったことがある。26年も“トランプ流”で世界が騒がしいのかと思うと、新年への明るい希望よりは、少し憂鬱な気分になる。(文中一部敬称略)

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2025年12月 2日 (火)

第126話 「頑張って」と「頑張ります」の大違い 高市政権の命運 公明が握る?

 初代内閣総理大臣の伊藤博文以来140年が経過し、日本にも初の女性総理(第104代)が誕生した。かつてのサッチャー英首相、メルケル独首相、インドのインディラ・ガンジー首相や現在のメローニ伊首相等、女性のトップリーダーは国際的にはさして珍しくはない。国際連合によれば、2025年9月時点で世界には女性の大統領や首相は32人存在する。それでも「初の女性総理」であることや、高市首相の歯切れがよい言葉が響きがよいのか、各種世論調査で内閣支持率は高い。自民党本部は「次期総選挙ではかなりの浮動票も期待でき、参院選で参政党に逃げた保守票も取り戻せる」と意気込む。しかし、地方では自民党の衆院議員は「公明党の連立離脱で支持層が離れれば自分たちの当選はおぼつかない」と不安の声が噴出している。

 公明党の斉藤鉄夫代表は自民党との連立離脱の際、「国政選挙では党本部として自民党候補は推薦しないし、わが党候補も自民党から推薦を受けない」と明言した。これを受けてメディア各社は、次期総選挙の小選挙区での自民党候補への影響について試算している。JX通信社によれば、前回総選挙の小選挙区で当選した自民党議員132人のうち、52人が落選するとの衝撃的試算を公表した。この試算は前回総選挙の各小選挙区で自民党候補が獲得した票から、その選挙区での公明党の比例代表獲得票数を機械的に差し引いたものだ。その結果、比例代表獲得議席が前回と同じと仮定した場合、自民党は過半数はおろか比較第一党の座も立憲民主党に奪われるという計算になる。ただ、これは単純な“机上の試算”であり、選挙の実態とは少し乖離している。自公連立以降の総選挙では、公明党が立候補していない小選挙区では「小選挙区は自民党の〇〇へ、比例代表は公明党へ」というバーターの相互協力が常態化しており、公明党の比例代表獲得票の中も自民党支持層から入った票が1割程度とあるとされているからだ。

 このため、次期総選挙でも公明党の比例分がそっくり自民党候補から剥がれることにはならない。しかし、共同通信社や読売新聞社が前回総選挙時の出口調査を基に支持政党別の投票行動から試算したところ、自民党はそれでも23~29議席を失う結果が出ており、自民党の小選挙区候補者にとってはやはり“恐怖の試算”ではある。

 ここで数量的データではなく、選挙の現場での「支援の熱量」についての実話を紹介しよう。かつて自民、公明両党の推薦を受けて東京都知事選に出馬した石原信雄氏から聞いた話だ。石原氏は竹下登内閣から村山富市内閣まで7代の内閣で官僚組織のトップである「内閣官房副長官(事務)」として支えた後、都知事選に出馬(落選) した。以下は彼の話だ。

「自民党や関連業界団体の激励会で私が挨拶すると、集まった人達は私に決まって『頑張ってください』と言うのです。ところが公明党関係の集会では、私を支援者が取り囲み、口々に『頑張りますから』とおっしゃる。握手一つをとってもその強さが全く違うのです」

「『頑張ってください』は激励の言葉ではあっても頑張るのは候補者の私自身なのです。一方、『頑張ります』は、支援者の皆さんが自ら票集めに汗をかくという決意の表明なのです。熱量がまるで違いました」。自民党系と公明党系の支持者の応援の真剣度の違いを肌で感じたという。

 この石原氏の話を何人かの自民党の小選挙区候補者に話し、受け止め方を聞いたことがある。決まって返ってきたのが「全く石原さんのいう通りです。自民党系の集会では一応、顔を出しているだけという空気も感じられ、公明党系とはまるっきり熱気が違うのです」という感想。

 公明党は次期総選挙では小選挙区での出馬は絞り込み、比例代表に重心を移す方針だ。ただ、公明党支持者も比例代表の投票のために投票所に足を運ぶ訳で、小選挙区だけを棄権したり、白紙投票するわけではない。公明党は「各地域ごとに人物本位で判断してもらう」(斉藤代表)という。このため、公明支持者の票がそっくり野党の立憲民主党候補等に流れることはないとしても、仮に半分でも自民党候補から離れて他候補に流れれば計算上は「行って来い」でその効果は2倍になり、自民党候補への打撃が大きいことは事実だ。だからこそ連立の組み換えで自民・維新VS野党という中央の永田町での政争とは別に、いま、全国の各地域では自民党候補が公明党と「従前どおりのお付き合いを」と神経を使い、自民党鹿児島県連等は「公明党との関係維持」を確認、党本部に伝えたほどだ。衆院議員の定数削減問題もあり、今後も流動的要素はあるが、「公明党支持者の投票行動が高市早苗政権の命運を握っている」と言っても過言ではないのだ。

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